ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

三国第八版:インスタント・即席・駅弁

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

「インスタント・即席」について。

niwasaburoo.hatenablog.com

  インスタント 即席。「-食品・-コーヒー・-ラーメン・-な処置」 

  即席 1その場(で作ること)。「-(の)料理・-ラーメン〔=インスタントラー
    メン〕2 大急ぎで、まにあわせにすること。  三国第七版

 

「インスタント」とは「即席」のことだというのは、単に他の語で置き換えただけですが、意味はそれでわかるでしょう。でも、逆に「即席」と同じように「インスタント」が使えるわけではありません。「即席でスピーチをする」は「インスタントで」とは言えないでしょう。

それはまあいいとしても、「即席」が「その場」というのはおかしい、と書きました。
カッコ( )の中は省略してもいいはずのものですから。

第八版では、

 

  インスタント  即席。即座。「-食品・-コーヒー・-ラーメン・-な処置」

  即席 1その場で作ること。「-(の)料理・-ラーメン〔=インスタントラー
    メン〕2その場で間に合わせにすること。「-によんだ歌」  

  即座 その場ですぐ。即席。「-に答える」        三国第八版 
       

「即席」はカッコを外して「その場で作ること」になりました。
しかし、前の記事でも書いたように、「その場」は「即席(インスタント)」の意味合いの中心ではないと思うんですよねえ。(語源的には「席」に「即す」だからそうかもしれませんが。)

例えば、「即席(インスタント)ラーメン」だって台所で作るし。
逆に、寿司屋のカウンターで何か頼むと、「その場で」(即座に)握ってくれますが、あれは「即席(インスタント)」なのか。いや、ラーメン屋だって、注文すると「その場で」麺をゆでたり、スープを入れたりして作ってくれます。特に屋台なんかそうですね。

 

  インスタント -な〔instant=即席の〕ちょっと手を加えるだけで、すぐ食べられる
    (使える)こと。「-なやり方/-食品・-コーヒー・-ラーメン」  新明解

  即席 1準備をしないで、その場ですぐにすること。「━のスピーチ」2手間をかけ    なくてもすぐできあがること。インスタント。「━麺」  明鏡

 

「インスタント」では「その場」は重要な要素ではありません。「かんたんに(すぐ)」ということ。「即席」は、一つの用法は「インスタント」と同じ、もう一つは「その場」の意味合いが生きてはいるけれども「(特に)準備をしないで」というところがポイント、ということなのではないでしょうか。

 

もう一つ。改訂で何も変わらなかった項目を。(品詞表示がなくなったり、アクセントがついたりしましたが。)

niwasaburoo.hatenablog.com


  駅弁 駅で売る弁当。  三国第七版・第八版

 

これはあんまりじゃないか。詳しくは元の記事をご覧ください。

私の改訂案。

 

  駅弁 駅構内や車内で旅客に売る弁当。その地方独特の産物などにより人気が
    ある。「駅弁を食べるのも旅の楽しみの一つだ」

 

独特なもので人気があるから、デパートやスーパーで「駅弁大会」なんてものをやったりして、けっこう売れたりするんですよね。それが、三国の語釈からは出てこない。

 

三国第八版:ウェーデルン

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

「ウェーデルン」ということばと、それを説明することばをめぐっていろいろ書いたことがあります。

niwasaburoo.hatenablog.com

  ウェーデルン〔ドWedeln〕〔スキーの〕連続小回り回転。  三国第七版

 

「ウェーデルン」ということばを知らなかった人が、この説明で「ああ、なるほど」とわかるものだろうか、というのが最初の疑問です。

 

スキー用語で「回転」ということが何を意味するのか、そこが問題の焦点だ、というのが前回の記事を書いていてわかったことの一つです。

 

  回転 (名・自他サ) [1] ①軸を持つものが、まわること。また、まわすこと。
   「エンジンの-・-いす」②一つの点を中心にして、(まわりを)まわること。
   「腕を-させる・頭の-〔=はたらき〕がはやい」③〔経〕(略) 
   [2]〔←回転競技〕スキーの、アルペン種目の一つ。旗門の間が短く、最も
    小刻みなターンの技術を要する。   三国第七版

 

第七版の書き方だと、もともとの「回転」の意味である「軸を持つものが…」とか「一つの点を中心にして…」というのは「ウェーデルン」には当てはまらないように思われます。スキーでそのような動きはしないでしょう。

もう一つ、「回転競技」の略、というのがあり、これが関係するのだろうと思うのですが、そうすると、「ウェーデルン」とは「〔スキーの〕連続小回り回転競技。」のことだ、となってしまって、それもまた変です。(前回の記事では、このことに気付いていませんでした。)

結局、「回転競技」を他の辞書で引いてみて、

 

  スキー競技のアルペン種目の一つ。斜面のコースにジグザグに設けられた規定の
  数の旗門を通過しながら滑り降り、タイムを競うもの。スラローム。  集英社

  スキーのアルペン競技の一つ。斜面に立てられた決まった数の旗を、順に右左
  交互にまわってすべりおり、その速さをきそう。   例解新

 

これらを参考に、「斜面のコースにジグザグに設けられた」「決まった数の旗を、順に右左交互にまわってすべりおり」というところの、「ジグザグに」「まわって」という辺りを「回転」とスキーでは言うのではないか、という結論になりました。

「ウェーデルン」とは、そのような連続の、小回りの、「回転」をすることなのだろう、と考えました。(映画などのスキーの場面でよく出てくるあれなのか、と。)

YouTubeで「ウェーデルン」と検索すると、動画でたくさん見られるんですね。これも前回は気づきませんでした。

 

さて、三国第八版ではどうなっているでしょうか。

 

  ウェーデルン〔ドWedeln〕〔スキー〕〔古風〕連続小回り回転。  三国第八版

 

おやおや、「古風」になっちゃいました。(他の辞書では項目自体ないことが多いです。)他は変化なし。これじゃ、やっぱりなんだかわからないんじゃないでしょうか。

 

「回転」のほうは、

 

  回転 [1](略)[2]〔←回転競技〕〔スキー・スノーボードアルペン種目の
    一つ。蛇行する形に並んだ門を通りぬけながらすべる競技。スラローム
    〔ぐるぐる回るわけではない〕  三国八版

 

この、〔ぐるぐる回るわけではない〕というのは面白いですね。国語辞典の注記としては珍しい書き方だと思います。

[1]のほうは七版と同じなので、やはり「連続小回り回転」には当てはまりません。それを否定して「ぐるぐる…」と言っているのでしょうね。

でも、上にも書いたように、「ウェーデルン」の「回転」がこの[2]だとすると、「連続小回り回転競技」になってしまいます。だめです。

 

ふむ。どうしたらいいでしょうか。

私の思うに、スキーでは「回転」とは(ジグザグに)方向を変えることだ、という説明を「回転競技」とは別に書いておく必要があるのじゃないかと思います。だから、「回転」競技というのだ、ということも含めて。
 
この意味では、「回転」と言うより「ターン」と言うのが普通の言い方じゃないかと思うのですがいかがでしょうか。

大辞泉で「ターン」を引くと、

 

  ターン【turn】[名](スル)
   1 回転すること。また、向きを変えること。「Uターン」
   2 水泳・マラソンで、折り返すこと。ターニング。「中間地点をターンして
    ゴールに向かう」「クイックターン
   3 全体の中間を過ぎること。前半から後半になること。「全勝ターン」「首位
    ターン」
   4 社交ダンスで、旋回すること。
   5 スキーで、回転すること。特に、クリスチャニアをいう。
   (以下略)   大辞泉

 

「スキーで、回転すること」とあり、やっぱり「回転」になってしまいます。

クリスチャニア」というのも出てきました。どこかで聞いたことがあるような気もします。

 

  クリスチャニア【(ドイツ)Kristiania】《オスロの旧称、クリスチャニアで始まった
    ところから》スキーをそろえたまま急速度で方向変換または停止する技術。
                             大辞泉

 

ふむ。「回転」とは言わず、「方向転換」と言っていますね。そうなんだから。

では、大辞泉「回転」は。

 

  かいてん【回転/×廻転】[名](スル)
   1 物が、ある軸を中心としてまわること。「—式のテーブル」「翼が—する」
   2 からだを転がしたり、宙がえりしたりすること。「—レシーブ」「マット上で
    三—する」
   (略)
   6 「回転競技」の略。    大辞泉

 

やはり、完全に回ることで、「方向転換」の意味は書かれていません。そして、「回転競技の略」です。

これだと、「ターン」の語釈の「スキーで、回転すること」というのが「物が、ある軸を中心としてまわること」だったり、「からだを転がしたり、宙がえりしたりすること」になってしまって、なんだかわからなくなってしまいます。(「回転する」という動詞なのだから、「回転競技」の略、ではありません。)

 

いつ、だれが「スラローム」を「回転競技」と訳したのかは知りませんが、その人がよくなかったんじゃないか、というのがスキーの素人の感想です。

「回転」というより、「蛇行」というほうが合っているでしょう。イメージはよくありませんが。

上で引用した、三国第八版の「回転」の語釈には、まさに

 

  蛇行する形に並んだ門を通りぬけながらすべる

 

とありました。(「大回転」は「大蛇行」??)

 

話が「回転(競技)」のほうに行ってしまって、「ウェーデルン」のことがどこかへ行ってしまいました。

元に戻って、それをどう説明したらいいかを考えなくてはいけません。

前の記事でも引用したのですが、

 

  ウェーデルン スキーで、小きざみに連続して回転しながらすべる技術。  新選

  (スキーで)小回りの回転を連続的に行いながら滑降すること。また、その技術。   集英社

 

これらの説明の「回転」を「ターン」か「方向転換」に置き換えれば、とりあえずはわかりやすいのではないでしょうか。例えば、

  スキーで、小きざみに連続してターンしながらジグザグに滑降すること。

ぐらいではどうでしょうか。不正確でしょうか。  

そうか。ボーゲンでも「小刻み」なら上の説明にあってしまうでしょうか。

 

wikipediaで「ウェーデルン」を検索してみたら、「パラレルターン小回り」というのが出てきて、

 

  早いリズムで外スキーから次の外スキーまで踏み換えながら滑る技術で、パラレル
  ターンの小回り的といえるターン。以前はウェーデルンと呼ばれていて、主に上級者
  のターン技術である。

 

と書いてありました。

スキーを平行に(「パラレル」)そろえていないといけないのですね。

  スキーで、板を平行にそろえた状態で、小きざみに連続してターンしながら
  ジグザグに滑降すること。

これでどうでしょうか。まだ不正確でしょうか。とりあえず、三国の記述の改訂案です。

 

いやはや、小さな項目一つでこんなに大変なのですから、これを8万語でやろうとしたら人間業じゃありませんね。

 

三国第八版:アイドリング・ウイット・ウイッグ

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

外来語をいくつか。

 

ずいぶん前に、「2015-07-31アイドリング」という記事を書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

  アイドリング 機械の、からまわり。エンジンの、からふかし。「-ストップ」
                           三国第七版

 

この語釈はダメでしょう。用例の「アイドリングストップ」の意味と合いません。なお、「からふかし」とは、

 

  からふかし 自動車を走らせないで、アクセルをふんでエンジンの回転を高くする
    こと。                     三国第七版

 

第八版では、

 

  1乗り物は止めているが、エンジンをかけたままの状態。「-ストップ〔=二酸化
    炭素を出さないように、乗り物の停止時にエンジンも止めること〕」
  2すぐに動ける状態で待つこと。待機。「プリンターが-中だ」   三国第八版

 

ずっとよくなりました。 

ちょっと疑問なのは、「乗り物の停止時」でいいのだろうかということ。「停止」というと、交差点での「一時停止」から夜間に車庫にある状態まで含まれてしまうのではないでしょうか。前者ではエンジンを止めたりしませんし、後者では止めるのが当然です。

「停車時」ではないでしょうか。新明解は「駐停車の間」と言っています。

 

  アイドリングストップ和製英語 ←idling+stop〕〔自動車で〕二酸化炭素
    排出の削減などのために、駐停車の間エンジンを完全に停止させること。
                         新明解

 

次は「ウイッグ/ウィッグ」について。(「2017-08-23ウイッグ」)

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  ウイッグ かつら(鬘)。ウィッグ。  三国第七版

 

時代劇のカツラは「ウイッグ」とは言わないのでは、と書きました。

第八版では、「ファッション用」で「つけ毛」も加えられました。

 

  ウィッグ ファッション用のかつらやつけ毛。ウイッグ。  三国第八版


もう一つ、「ウイット」について。(「2017-08-21ウイット」)

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  ウイット〔wit〕気のきいた<ことば/しゃれ>。「-に富んだ話」  三国第七版

 

他の国語辞典は「ことば/しゃれ」ではなく、

 

  (略)気のきいた言葉やしゃれがとっさに出せる才知。機知。「-に富んだ話」
                                                       新明解

 

「才知/機知」とします。そのほうがいいのでは、と書きました。

 

第八版では、
                            
  機知や機転(の感じられる、ことばやしゃれ)。ウィット。「-に富んだ話」第八版

 

となりました。「ことば/しゃれ」の意味でも使われるのでしょうから、これでいいと思います。

 

三国第八版:ウエート/ウエイト

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

「2017-08-12ウエ ート」という記事で、外来語が表す「意味」の説明と、その「使い方」の説明の違いについて書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

三国第七版から第八版になって一部書き換えられましたが、肝心な部分がそのままです。

 

  ウエート (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。▽ウエイト。 ・ウエートを置く
    [句] 重くあつかう。   三国第七版

  ウエイト (名) ①重量。重さ。②重み。重要さ。③重し。「ぺーパー-」
    ▽ウエート。ウェイト。ウェート。 ・ウエイトを置く[句]重くあつかう。
    「数学にウエイトを置いて勉強する」
                         三国第八版

 

まず、見出しの形が「ウエート」から「ウエイト」に変えられました。これは、そう発音されることが多いということでしょうか。それとも、そう表記されることが多いということでしょうか。発音は「ue:to」と変わらずとも。

記述の内容を見てみましょう。

「ウエート/ウエイト」ということばを目にしたり、耳にしたりした時に、「重量。重さ。」あるいは「重み。重要さ。」で置き換えれば大体の意味は通じるのでしょう。

でも、それで「ウエート」ということばの使い方がわかったことになるのでしょうか。

 

  ・電車は、1両20t以上の重量がありますので、10両で200tです。
  ・1 ビーカーの重量を測り,それぞれのビーカーに米50gを入れる。
           (書きことばコーパス NINJAL-LWP for BCCWJから)

 

という文で、「ウエート」と使えるかどうか。

そうでないとしたら、どういう説明を上の語釈に加えればいいのか。

他の辞書を見てみます。

 

  ウエイト ①重量。特に、体重。   明鏡

 

明鏡は「特に、体重」と言っています。これが正しいとするなら、上の二つの例で「ウエート」と言わないことが説明できます。

しかし、例えば私が、「毎日、風呂に入る前にウエートを量っている」というのも何か変でしょう。

また、赤ちゃんの体重を量る時に「ウエートが…」などとは言わないでしょう。

 

  ①〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。  新明解

  ①重量。特に体重。「ウエートがオーバーする」  現代例解

 

新明解はかなり限定しています。

現代例解は、おそらく新明解と同じ解釈で、用例をあげています。(私は、風呂の前に体重を量って「ウエートがオーバーしている」とは言いません。医者に、何キロ以下に減量しろ、とか言われていれば言うかな?)

この二つを合わせると、かなり状況が限定され、使い方がはっきりします。
 
  ウエート 〔ボクシング・レスリングなどの選手の階級を決める〕体重。
    「(試合前の計量で)ウエートがオーバーする」


とか。

もちろん、これ以外にも「ウエート」を使える(「重量」の意味で)場面はあるのでしょうが、いちばん典型的な使い方ではないでしょうか。

ただ、このような説明、用例を書くようにするのがよいと言うと、よく言われることですが、「辞書の大きさが大きくなりすぎ、価格も高くなり、…」という反論、あるいは言い訳が出てきます。

それはそうなんですが、このくらいの説明をしなければ、「語の用法」を解説した国語辞典、とは(恥ずかしくて)言えないんじゃないでしょうか。


さて、用法の2つ目、「重み。重要さ。」のほうを考えてみましょう。

「書きことばコーパス」を見ると、「ウエート」の使用例のほとんどはこちらの意味のようです。

 

  ・政府予算案の中で大きなウエートを占める人件費の問題について質問します。
  ・45%:55%ぐらいの割合で守備にウェートを置いてくるでしょう。
  ・株価の形成には心理価値というもののウェートが大きいからです。
           (書きことばコーパス NINJAL-LWP for BCCWJから)

 

こちらも、「重み。重要さ」との使い方の違いが重要です。

 

  重み ①重く感じる<こと/程度>。「雪の-」②どっしりとしておちつきのある
    こと。「-のある態度」(⇔軽み)③大切な価値。「-のある発言・歴史の-」
                         三国第八版
 
「雪のウエート」「ウエートのある態度」「ウエートのある発言」「歴史のウエート」。
どうでしょうか。どれも変ですね。(最後の例は文脈によっていいかもしれません。)

上の書きことばコーパスの3つの例はどういう意味合いで使われているのか。

「他の同類のものと比較した、そのものの重要度」ぐらいのところでしょうか。「重要さ」でもいいかもしれませんが、「ウエート」というと、他のものと比較して言っている、という感じが特にします。

 

他の辞書を見てみると、

 

  ②重点。「…に-を置く〔=重要なものとして扱う〕/-を掛ける/-は低い
   (小さい)」  新明解

  ②重要度。重点「<置く>少子化対策にウエートを置く」「<占める>ウエートを
   占める」   現代例解

 

「ウエートを置く」「ウエートをかける」「ウエートは低い(小さい)」「(大きな)ウエートを占める」など、適切な用例をつけることが重要ですね。そうすることで、意味だけでなく、実際の使い方が(少しでも)わかります。

三国は用例が少ないのが大きな欠点です。この「ウエート」の項は特にそれが表れています。

[句]として「追い込み項目」とされている「ウエートを置く」はまさにこの用法2の例になるわけですが、それ自体に用例が必要なものです。第八版では用例が付きました。

また、用法の③として「重し」の意味が加わり、「ペーパーウエイト」という用例がつけられています。この辺は改訂によってよくなったところです。

 

全体として、項目としてよくなったとは思いますが、初めの二つの用法の解説が全く不十分なのは残念です。

三国第八版:ドライブウェイ・ウインナー-・ウイニング-

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

外来語の原語問題です。その外来語はどこの言語から来たのか。

 

「2017-10-27ドライブウェ-」という記事で、原語は英語か、それとも和製語かということを問題にしました。色々な辞書を引いてみました。英語の辞書も。

niwasaburoo.hatenablog.com

三国第七版は、

 

  ドライブウェー〔和製driveway〕ドライブ専用の舗装道路。 三国第七版

 

和製語という判断でした。 
(私の結論は、英語だろう、でした。)

 

第八版は、

 

  ドライブウェイ〔driveway〕ドライブ用の自動車道路。ドライブウェー。 第八版

 

英語になっていました。

 

「2017-10-31ウインナー」では、「ウインナー」の原語がドイツ語であることはいいとして、「ウインナーコーヒー」と「ウインナーソーセージ」はどうか、ということを書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

和製語とする「大辞林グループ」と、英語から来たとする「大辞泉グループ」に分かれるという興味深い話になりました。

三国第七版は、

 

  ウインナ(ー)〔ドWiener〕[1]←ウインナソーセージ。[2](造語)〔ウイン
    ナ(ー)-〕ウィーン〔=オーストリアの首都〕の。「-ワルツ」
   ・-コーヒー〔Viennese coffee〕あわだてた生クリームをたっぷり浮かべた
    コーヒー。
   ・-ソーセージ〔Vienna sausage〕羊の腸につめた、指ほどの太さのソーセ
    ージ。   三国第七版

 

英語からとはするのですが、なぜか「ウインナー」の部分の英語が違っていて、個性的でした。

 

第八版では、

 

  ・-コーヒー〔Vienna coffee〕あわだてた生クリームをたっぷり浮かべた
   コーヒー。   三国第八版

 

コーヒーのほうがソーセージに合わせた形になっていました。これは、「大辞泉グループ」と同じになったということです。

 

ネット上で引ける「英辞郎」というもので調べてみると、

 

  Viennese coffee ウイーン風のコーヒー、ウインナー・コーヒー  英辞郎

 

とありました。

英語にこの言い方があるとして、さて、それが日本語に入って「ウインナ(ー)コーヒー」となったかどうか、です。発音がずいぶん違いますから。(Vienna coffee  は英辞郎にはありませんでした。) 

 

「-ソーセージ」も英辞郎で見てみました。

 

  Vienna sausage《a ~》フランクフルト・ソーセージ◆薫製されたビーフやポーク
   のひき肉のソーセージを指す。ヨーロッパに比べて、アメリカのものはやや
   短くて太めである。◆【語源】フランクフルト出身で、ウイーンに移り住んだ
   肉屋によって発明されたことから。◆【同】wiener sausage

  wiener sausage《a ~》フランクフルト・ソーセージ◆【同】Vienna sausage
   ◆Wiener sausageとも表記される。   英辞郎

 

さて、こちらはどうなんでしょうか。この英語から入ったのかどうか。
これはなかなか難しそうです。

 

「2017-10-28 ウイニング-」では、「ウイニングショット」「ウイニングラン」などの語が英語かどうかを考えました。

niwasaburoo.hatenablog.com

三国は、七版と八版で大きな違いはありません。どちらも英語とします。

 

  ウイニング-(造語)〔winning〕勝利を得る。ウィニング。
   ・-ショット〔winning shot〕〔球技〕勝利を決定づける一打。きめだま。
   ・-ラン〔winning run〕①〔野球など〕決勝点。②〔スポーツ〕観客の称賛に
    こたえるため、競技場を一周すること。  三国第八版

 

新明解は、違います。
 
  -ショット〔和製英語 ←winning+shot〕1〔テニスで〕それによって必ず勝つ
   という、得意の打ち方。決め球。2〔野球で〕その投手が打者を打ち取るのに
   最も得意とするたま。決め球。   新明解第八版

 

「-ラン」の①は三国と同じ「決勝点」で英語としますが、②は「日本語用法。英語ではvictory lapという」と書いています。(七版・八版とも同じ)

明鏡は新明解と同じ考えで、岩波は「ウイニング-」という項目がありません。

 

英辞郎」には、

 

   winning shot
   1《野球》決勝点となる[につながる・をもたらす]一打
   2〈和製英語〉《野球》ウィニングショット◆【標準英語】out-pitch ;
     strikeout pitch

   winning run
   1《野球》決勝点、サヨナラのランナー
   2《スポーツ》独走、連勝
   ・X team's winning run ends as Y team claim victory at the Monaco GP. : モナコ
    グランプリはYチームが優勝、Xチームの独走は止まった。
   3〈和製英語〉ウィニング・ラン◆【標準英語】victory lap   英辞郎

 

とありました。

どうも三国は分が悪いようです。

 

三国第八版:青い・淫乱・多く・おいそれと

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

用例に関する問題をいくつか。

 

かなり前に、「青い」の用例について批判的なことを書きました。

niwasaburoo.hatenablog.com

 

  青い ①青の色だ。「-目〔=西洋人〕のお客さま」 三国第七版

 

第八版でここを見たら、ちょっとびっくりしました。
  
  「-目〔=西洋人をひとまとめにした無神経な言い方〕の観光客」 三国第八版

 

「改訂」でこんなにも方向が変わるものでしょうか。

まあ、私の言いたかったことではありますが…。

 

次は、「いんらん」について。

niwasaburoo.hatenablog.com

  淫乱 みだらなおこないを好むこと。「-な女」  三国第七版

 

どうして「女」なのか。他の辞書は違う、と書きました。

 

  淫乱 みだらなおこないを好むこと。「-な性質」  三国第八版

 

これだけのことなんですが、このほうがいいと思います。

 

三つめは「おおく」の副詞用法の用例。

niwasaburoo.hatenablog.com

  多く 1(名)たくさん(の)もの。「-を語らない」2(副)たいてい。ふつう。
       「-は」   三国第七版

 

この「-は」というのは用例として意味をなさないように思います。
 
第八版では、

 

   2(副)大部分の場合。ふつう。「原因は、-(は)ストレスによる」 三国第八版

 

まともな用例になりました。


最後に、「おいそれと」の語釈に疑問を感じ、いろいろ書いたところから。

第八版では、語釈はほとんど変わらず、用例が変わっていました。用例が増えたのはいいのですが…。

niwasaburoo.hatenablog.com

三国第七版。

 

  おいそれと (副)〔下に打消しのことばが来る〕すぐに。簡単に。「-(は)できない」   三国第七版

 

そして第八版。

 

  おいそれと (副)〔後ろに否定が来る〕すぐに。簡単に。「-(は)引き受けられない
    ・-と買えない品物」[由来]「おい」と呼びかけられて「それ(来た)」と
     応じる意味から。   三国第八版

 

二つ目の用例は「おいそれとと買えない品物」?

 

三国第八版:雑草

三省堂国語辞典第八版が第七版からどう変わったか、このブログでこれまでにとりあげてきた項目を見てみます。

 

「雑草」について。

niwasaburoo.hatenablog.com

七版で「あかざ」という項目を見たとき、ずいぶんそっけない説明だなあということと、語釈に「雑草」なんて語を使っていいのかなあ、とも思いました。

 

  あかざ 〔植〕雑草の名。昔は食用。   三国第七版

 

新明解を見ると、

 

  あかざ 畑・荒れ地に自生する一年草。若葉は食用、茎はつえにする。〔アカザ科
      「-の羮」   新明解第七版 

 

さすがに「雑草」ではありませんでした。

 

では、「雑草」とは。

 

  雑草 田畑にはえる、農作物以外のいろいろの草。生命力の強いもののたとえに
     用いる。  三国第七版

 

これはダメでしょう。我が家の庭に生えるのは雑草でないことになります。

 

第八版では、

 

  あかざ 道ばたなどにはえる野草。戦後の食糧難の時代には食用にした。成長した
     くきは、つえに使う。

  雑草 田畑や庭、道ばたなどにはえる、じゃまな草。〔生命力の強いもののたとえ
     に用いる〕  三国第八版

 

「あかざ」は「野草」になっていました。

「雑草」は、「庭、道ばた」にも生えるようになりました。

「じゃまな草」とはまあ。そうなんですけどね。すると、「あかざ」は「じゃまな草」から「野草」に格が上がった?

 

七版では、いろいろな草の語釈に「雑草」という語がつかわれていました。(語釈はかなり省略します。)

 

  えのころぐさ  道ばたにはえる、イネの仲間の雑草。

  つゆくさ  道ばたなどにはえる雑草。

  母子草  道ばたにはえる雑草の名。   

  はこべ  いなかの道ばたに多い雑草。  三国第七版

 

八版を見ると、「えのころぐさ」と「つゆくさ」はそのままでした。「母子草」と「はこべは「~野草(の名)」に書き換えられていました。

語釈に「雑草」ということばを使っていいと考えているのか、そうでないのか。

この辺の編集はどうなっているのでしょうか。