ことば・辞書・日本語文法(2)

元日本語教師です。ことばと、(日本語)辞書と、日本語の文法について、勝手なことを書いていきます。

南国・北国・西部劇:岩波国語辞典の項目選択

前回の続きです。「南国・北国」などの話を。これは、前回に引用した岩波国語辞典の「はじめに」にある「要素的な語によって割合たやすく分かるような語」に関わる話です。 6年前、「北東」の記事の次に、「2015-09-30岩波:南国」という記事を書きました。…

北東・東北:岩波国語辞典の項目選択

6年前に、岩波七版について「2015-09-27岩波:北東」という記事を書きました。 岩波国語辞典についての話です。 「北東」が項目としてありません。「東北」も。 方角はいらないという判断です。そうかなあ。 驚いたのは、「南北」もないこと。「南北問題」…

国語辞典と省の略称(2):岩波など

前回の続きですが、他の国語辞典を見る前に、問題を基本的なところから述べておきます。 まず、そもそも国語辞典が中央官庁名を項目としてたてるべきかどうかということから。 これは、一般的に国語辞典がいわゆる百科項目をどこまで載せるべきかという問題…

国語辞典と省の略称

形容動詞周辺の品詞の話はまだ続けたいと思っていますが、気分転換に違う話を。 以前、「もんかしょう・こっこうしょう」の話を書いたことがあります。(「2015-05-10 もんかしょう」「2015-05-16 他の省庁」) これらの「-しょう」は、「省」つまり役所も…

岩波国語辞典の「口語」

岩波国語辞典の「口語」と「文語」について。 こうご【口語】話し言葉。口頭語。⇔文語。 岩波 これだと、「文語」は「書きことば」になってしまいます。 ぶんご【文語】①文章だけに用いる特別の言語。平安時代の文法を基礎として発達した。⇔口語。「―文法」②…

岩波国語辞典と品詞名など

このところ、国語辞典が「形容動詞」をどう扱っているかを見ています。 岩波国語辞典は本文で「形容動詞」をどう説明しているのかと見てみたら、項目がありませんでした。 ちょっと驚いて、「名詞」「動詞」「形容詞」などを見ると、どれもありません。品詞…

岩波国語辞典と形容動詞(3)

前回の話の続きです。(一部、前回の話の要点をくり返します。) 岩波国語辞典の、形容動詞の扱いについて、その長所と問題点を考えます。 岩波は、いわゆる形容動詞をいくつかに分けます。 1 まず「きれい」のような、「きれいな景色」「きれいに描く・仕…

岩波国語辞典と「形容動詞」(2)

前回の記事からの続きです。 岩波国語辞典の「語類概説」の「形容動詞」から、少し長く引用します。 形容動詞の語幹は、しばしば名詞と紛れる。学者によってはこの品詞を認めないが、この辞典は通説に従って、語類を〔ダナ〕で表示した。表示が〔名・ダナ〕…

2021-10-01 岩波国語辞典と「形容動詞」

国語辞典と形容動詞の話の続きです。次は岩波国語辞典。 岩波(の編者)は巻末付録の「語類概説」の中で、 以上の通りこの辞典では、形容動詞かと思われる場合には、かなり細かい検討をした。(p.1701) と自ら書いているように、いろいろと細かい区別をしてい…

新明解と形容動詞:「-な-に」/「-な」

前回の続きで、新明解国語辞典の形容動詞の扱いについての話です。 新明解は「形容動詞」という品詞を独立した品詞として認めていません。例えば「きれい」は、基本的に名詞で、 きれい -な-に と表示され、 名詞(品詞無表示)のほかに連体形に「な」、連…

新明解と「形容動詞」

前回の記事で、新明解国語辞典は「形容動詞」という品詞を認めていない、という話を書きました。 品詞の略語表には他の辞書の「形動」に当たるものはなく、巻頭の「編集方針」に、 名詞・副詞のうち、サ変動詞またはいわゆる形容動詞としての用法を併せ有す…

新明解の副詞:くたくた・ぐたぐた

新明解国語辞典の副詞「くたくた」と「ぐたぐた」の記述について、細かい話ですが。 まず「くたくた」から。明鏡国語辞典と岩波国語辞典の記述も並べます。 くたくたⅠ-な-に 1まともに立っていられないほど、くたびれきっている様子。 「朝から歩きどおし…

またまた・またしても:続き

前回の続きです。前回は、新明解国語辞典の「またまた・またしても」の解説があまりにも興味ぶかくて、それだけのほうがすっきりすると思い、短い記事にしました。 今回は他の国語辞典の「またまた」と「またしても」を一通り見てみます。 まずはいつもとり…

新明解の副詞:またまた・またしても

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。 またまた (副)予想(期待)に反して、同じ事が再び繰り返される様子。「-うっかりミスだとはたまったものではない/-休日出勤するはめになった/しかし選挙をやってみると、あれほどあきれた行状が天下に知れ…

新明解の副詞:まあ

新明解国語辞典の語釈の問題点を検討しています。今回は、副詞の「まあ」を。 いかにもかんたんそうなことばですが、考えだすと難しいようです。 まあ (副) 1相手の事情はひとまずおいて、こうしよう(してくれ)と、自分の方の立場を優先させようとする気持…

新明解の副詞:休み休み

新明解国語辞典の副詞を見ています。今回は軽い話で「休み休み」を。 休み休み (副)何度も途中で休みながら、同じ動作を続ける様子。「-歩く/ばかも-言え〔=よく考えて、控えめに言え〕」 新明解 用例の「ばかも休み休み言え」というのは、「(ばかも)よ…

新明解の副詞:まるで

新明解国語辞典の「まるで」の項の記述を検討します。 まるで (副)〔「丸で」の意〕すべての観点から見て そう言ってさしつかえないと思われる様子。「-夢のようだ/-子供だ/-分かっていない/昔とは-違う」 新明解 この項目だけ見ていても、その良し悪し…

新明解の副詞:もし

新明解国語辞典の「もし」の項の記述です。 もし (副)〔「-+仮定表現」の形で〕1将来起こりうると予想される事態が起こった場合を仮定する様子。「-雨が降ったらやめにしよう」 2(ありえないことだが)事実と反対の事態を想定してみる様子。「-戦争に…

うまる・うめる:岩波

岩波国語辞典の「うまる」については前に書いたことがあります。(2020-01-16 岩波第八版(2):ゆるい・うまる) 同じ話の蒸し返しですが、ちょっと情報を付け加えて。 うまる ①→うずもれる①。 岩波 うずもれる ①うまっている。「雪に―」 岩波 何度見ても、こ…

新明解の副詞:じつは

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。今回は「じつは」です。 じつは(接)めんどうな説明を省いて内情(事実)を端的に言うならば。「銀行のロビーで客を案内する制服の女性も-パートタイマー」 新明解第七版 これは第七版の記述です。なぜか(接…

新明解の副詞:なんとか

前回は「どうにか」をとりあげました。今回は「なんとか」です。 (副)1 具体的な内容を明言することを避けて(ができなくて)、その代りに用いる語。「-言っていたっけ/-という会社に勤めている/-〔=『ばか』と言うのをはばかって言う表現〕とはさみは…

新明解の副詞:どうにか

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。今回は「どうにか」をとりあげます。 どうにか (副) 1手段・方法を尽くして最低限の成果を得るにいたる様子。「-工面してみよう/-してやりとげます/命だけは-取りとめた」 2満足できる状態ではないが、最…

どうにか・なんとか:岩波

このところ新明解国語辞典の副詞を見ていますが、岩波国語辞典が相変わらずなのでちょっと寄り道を。 どうにか 〘連語〙何とか。まがりなりに。「―ならないか」「―間に合います」「―難なんを免れた」 岩波 「どうにか」を「なんとか」「まがりなりに」で単に…

新明解の副詞:そこそこ

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。今回は「そこそこ」をとりあげます。 そこそこ (副) 1辛うじて基準に達するか達しないかの程度にとどまる様子。「年金で-暮らしていけるといいのだが」「-の成績を残す」「まだ四十-だというのに髪は真っ白…

せいぜい:NHKアンケートから

前回の記事で、「せいぜい」について、 一般の日本人の語感ではどうでしょうか。 と書きました。 ネットで検索してみると、「NHK放送文化研究所ウェブアンケート」というのが見つかりました。 そこから抜粋して引用します。 「せいぜい」には、もともとは…

新明解の副詞:せいぜい

新明解国語辞典から。 せいぜい (副)〔中世語「精誠(セイゼイ)〔=誠意を尽くすこと〕」の変化という〕1出来る限りの努力をする様子。「-がんばってくれたまえ/-勉強いたします〔=商人の用語。⇒勉強〕」2どんなに多く見積もったところで、それが限度だと判…

新明解の副詞:重々

新明解国語辞典から。 重々 (副)どんな点から見てもそのように言える様子。「-の不始末/-〔=十二分に〕承知の上のことだ」 新明解 「重々の不始末」とは、「どんな点から見てもそのように言える様子」というのですから、「かなりひどい不始末」くらいのと…

新明解の副詞:たびたび・しばしば

新明解国語辞典と明鏡国語辞典から。 たびたび (副)一回や二回でなく、繰り返し行なわれる(起こる)様子。「自治体のヤミ給与は、これまでも-問題となった/-の警告も無視された」 新明解 副 同じことが何回も起こるさま。何度も。しばしば。「彼は━ここに…

新明解の副詞:しばらく

新明解国語辞典の副詞の記述を検討しています。 しばらく (副)長いと感じられるほどではないが、ある程度の時間を要する(が経過した)ととらえられる様子。「今-お待ちください/彼とは-会っていない/-ぶりの上天気/この問題は-置こう〔=当分の間触れ…

たぶん・間違いなく

前回の記事で、「たぶん」と「間違いなく」の確信の程度の違いについて少し述べました。 私にとってはその違いははっきりしているので特に辞書を見ていませんでしたが、念のため、辞書の記述を少し並べておきます。 たぶん 副《多く下に推量を表す語を伴って…